【 旅の栞 】

むかしばなし《第七話》:いちはら探訪


【子供に化けたキツネ】

昭和の始めの頃のことだが、出津村のある家の主人が海保の親戚(鴇矢家)の祭りに呼ばれたので、そろそろ日の暮れ方海保の村に向かって出掛けた。柏原を過ぎた所で見かけない子供に「おじさん、何処へ行くかい」と声をかけられた。おやじさんは人なれた子供だなと思いながら道を急いだ。今思うと中谷の村に差しかかった所で、親戚の家は(鴇矢邦雄家)すぐ其処の筈だが、道に迷ったのか中々親戚の家に着くことが出来ず、とうとう一晩中あちこち歩き回ってしまった。そろそろ夜がしらむころ、前の晩、来る途中で遭った子供にまた出合った。その子供は「おじさん」また遭ったねと云って何処となく去っていった。おやじさんは、そこであのガキはキツネであったと気づいた。とうとうあのキツネに化かされて親戚の家の祭りに行くことは出来なかったという。

【居眠りばあさん】

むかしは、どこの家でも昼間は浜に行って漁したり農作業し、夜は昼間採って来たアサリなどのムヒミ(剥き身)やサシレンなどを作る夜なべをやっていた。○○家の婆さんも、せいしょなもんだから、毎夜、夜遅くまで夜なべに精をだして働いた。
あるとき、親父さんと大八車を曳いて海保に薪木を採りに出かけることにした。空荷の車だが婆さんは大八車の後ろを押していたが、夜なべの疲れが出て石棒木(いしぼんぎ)の所まで来ると眠気がさして、大八車の後ろを押している格好で足を止めて居眠りをしてしまった。それに気づかない親父さんはどんどん前に行ってしまった。道の真ん中で大八車の後ろを押している姿で居眠りをしている婆さんをみてイシボンギの近くの者が、婆さんあにしてんだ、爺さまは先に行ってしまったぞと声を掛けるとキョトンとした格好で爺さまの後ろを追ったと、後の世の語り草となっててる。 話者 斉藤 広氏

【キツネに化かされた話】

《佐久間計郎さんの話》
おれがわけしの頃だけどよ、五井で呑んだけぇりにさ、自転車で出津を出て、松ヶ島ざけぇのつかん(横山という塚があった)とこさ来たば、道が急に明るくなってょ、そんときはべつにあんとも思わなかったへんどがよ。そん道がだんだん狭くなってきてさ、自転車が、とおんのがいっぺぇ、いっぺぇになってさ、しめぇにはのんねくなっちゃった、おらぁしょうがねえからょ、自転車を降りて田の中をひいて、やんできただよ。靴もイボンも泥んこさ、いま、かんげぇても、どこをどを、やんだか、けぇもくけんとつかねぇ。おそらくさ、松ヶ島ざけぇから、浜ん方えむかっていったんだべぇ。どろまみれでうちにけぇつたが、あれはキツネに化かされただとおもうよ。
《山下幸一さんの話》
あるとき漁をおえて、夜更けの浜に船をもやって、家にけぇつてくる途中だっけが、列になってな、いぐだょ。あらぁ、きっと、キツネだっぺ。船に残った魚をねらっていっただっぺな。
《島野の源さんの話》
村上の親戚の祝言に呼ばれて行った時のだがょ、最終の小湊線に乗ってけぇるつもりだったが、どうした事だが駅に行く道がわかんねぇでな、野良道をずうっとありぃて来ただょ。で、野良道をずんずんやんで来たはずだが、いつのまにか田植えの終わった、たんなかをやんできただょ。で、どうやらおおみちに出たがょ、そほは大宮さんのあたりだったな。服も靴もでぇなしになってな。ようよう、うちにけぇつたょ。

千葉県市原市「市原を知る会」問い合わせ先 0436-22-3817 谷嶋一馬。

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